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執筆者の写真上村優子

白駒の池



先日、東京にて小諸の生まれの知人A氏と話していて小海線(山梨北杜市から長野県小諸市まで日本一標高の高い場所を走る単線)やその界隈について盛り上がったときのこと。

「これからの新緑の季節、小海線で緑の中を抜けて行くのは最高ですよね〜!八千穂の奥村土牛美術館も良いし。八峰(ヤッホー)の湯もよく行きますよ〜」

「それも良いけど、八峰の先の白駒の池って知ってるかい?」

いいえ、と首を横に振る私に「白駒の池」という、日本で1番標高の高い場所にある湖を教わった。「いやぁ、何しろ泣けてくる。お前さんが行ったら池のほとりで泣いている姿に周りの人が驚いて見るだろうよ。」

ちょうど4月末に開いたというので連休明けの日、車で出発。スタジオから30分ほどの八峰の湯を超えそのまま山を北上すること30分。霧でがすったのか雲の中に入ったのかもやもやの中をしばし抜けると、目に飛びこんできたのは大泉で見上げる空より更に一段と澄んで青い空のもと、まだ葉に雪を携えた原生林。さすがに車道に雪はもうないが、林の地面にはまだかなりの雪が残っている。メルヘン街道というらしい。ドイツの山の景色に似ているからだって。へーえ、ドイツってこんななんだ。

比較的すぐ湖に歩いて行けるという有料駐車場を通り過ぎ、やや離れた無料の駐車場に停めて、シラビソ、トウヒ、ツガなどの原生林の中を歩いて行くことに。ひんやりした空気の中雪残る道をザクザク歩を進める。40分ほどかけて歩くうち、雲は大きく流れ原生林とのコントラストに目を見張る。

雪がなくなると、この辺りは苔の群生地、一面苔になるのだそう。ところどころ樹の根元に顔を出している苔を観察。一面の様子を想像する。




湖畔に小屋があり、今は閉まっていた。そのまま湖へと緩やかに降りていく。白く光る湖へ。見渡すも、湖周は原生林に囲まれ迫り来るような空。岸辺は解けかけているが、湖面の大部分はまだ凍ったままだ。氷の白の中での濃淡のその広い水面と周囲の樹々と空と雲の動き。驚くほどの水の冷たさ。標高2000m以上では最大の天然湖らしい。

湖畔を一周まわるコースに歩を進め小一時間(35分とあったが、雪残りのため)。たびたびそこここからの景色に歩を止める。さっきの小屋とま反対の宿泊&休憩施設に差し掛かったとき、そこの父ちゃんと小6くらいの息子が何やら仕事をしていた。挨拶を交わし、雪がなくなる頃について尋ねると、

「去年はもう5/3にはボート浮かべてたんですけどねぇ…  今年はこのありさまで …毎年違いますね…  まあでも、6月の半ば頃にはね、まあ、ずっと溶けない場所もあるんですけど。…はぁ、でも私なんかここに生まれ育って毎日違うこの景色を観ていて本当飽きないです。先祖に感謝します。…どうぞごゆっくりしていってください。」

大正11年に先祖が此処に居を構えたという。今から100年ほども前に此処へ根ざすことを決めた先人に想いを馳せ、脈々と命を繋いできた人びと。

そんな人の心を感じつつ、隣の白駒荘でお茶することに。と言いながら佐久の地酒、井筒長を頼む私。白い湖と青い空を眺めながら連れが頼んだソフトクリームとの好相性に幸せを感じつつ、雪が解けたらまた此処へ来たいと思った。



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