top of page
  • 執筆者の写真上村優子

ライブ前夜の焦燥



ライブまであっという間に1週間を切り、未だに思うようにいかない部分があったりと、もれなく焦燥感をつのらせている今日この頃ですが…。

よく言う交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかず、頭が冴えたまま眠れないこともしばしば。

そんな時はヨガニドラーをするか落語を聴いてやり過ごしています。

落語とクラシック音楽は似た要素が多いです。同じ古典でも噺家によって尺も違えば強弱やテンポも違う。同じ曲でもピアニストによって表現や尺が違うのと似ているな、と。

猫はいいなぁ。「眠れない」ことからここまで程遠い存在。

そういえば去年の5月の終わり頃、学校の課題で書いて好評だったスタジオで飼っている猫たちにまつわる話を公開します。

眠れないときのお暇つぶしにどうぞ。


『Climbing tree in nearly heaven』

 猫を飼っている。実家にもいるが、山梨北杜市のスタジオ兼住居にもいる。3年ほど前、里親サイトにて縁がありうちの子になった姉妹猫、名前はエマとシマ。かなり洋猫の血の入った雑種で、エマはロシアの国宝とも言われるサイベリアンに良く似たこげ茶色の長毛、シマは白地にサバトラの短毛で腕にアメショー柄の縞。(本当に姉妹なのか・・。)やっぱり猫の野生味で外に出たがる。雨や雪以外であれば日中庭に出している。(ちなみにエマは雪でも全然へっちゃら。さすがルーツロシア。シマは寒いのが大苦手。出たがらない。本当に姉妹なのか・・。)でも条件付きの外。コンクリートの錘に長い丈夫なナイロンの紐を付けた自家製の据え置きリードにつないでの。

 ここは八ヶ岳南麓、標高1,150mの地。野生動物もたくさん住んでいる。哺乳類ではシカ、タヌキ、キツネ、イノシシ、イタチ、リス、ヤマネ‥などなど。スタジオにいてふと気配を感じ外を見ると、シカの親子やキツネが庭の向こうを横切っていたりする。シカやイノシシは農家を困らせてはいるが猫には無害だ。けれどキツネは危ない。小動物を襲う。うちの子達は小柄なこともあり、万一のため、リードでの外になった。


 半径7mほどの範囲を自由に過ごしているのだが、そんな彼女たちがとりわけ好きな日課がある。散歩だ(犬か!)。長いリードを途中のフックを外して短くして、さあ散歩!と、出発するも喜びのあまりすぐ目の前の道の上で何度もごろごろする。最初のごろごろが済むまで待っていよいよ散歩。勢いよく歩き出す。(途中数回ごろごろあり。セッカチな人は猫の散歩は無理。)お気に入りの用足しスポットも数箇所あるし、近隣の草むらの中を嗅ぎまわり終始ゴキゲンな姉妹。中でも一番盛り上がるのが木登り。木はこの界隈によくある赤松が多い。ちょうど赤松の木肌に爪がうまいことひっかかるのだろう。目星をつけた赤松に助走して駆け上る。もちろん登り損なうこともあるが、成功した時の目を丸く見開き耳をやや後ろにピンと張った表情はスゴイ。どう!やったでしょ!とね。とりあえず褒める。

 ある日の猫の散歩中、悶々とまた今週のイベント案を考えていた。エマがまた赤松に登った。そして思う。そうだ、私も木に登ってみよう、と。

 さて実行の日。場所は谷戸城跡にする。(家の近くではやめて と元配偶者Tに言われる。フン!)谷戸城跡は、家から車で10分ほど降りたお気に入りの場所。簡単に登れる小高い小さな山で、山頂部の一の郭を中心に同心円状に六の郭まで広がる。大治5(1130)年頃、甲斐国に配流となった源義清・清光親子が土着し、甲斐源氏が誕生した。その後勢力を拡大し、後に戦国大名となる武田家の基礎となる。天文17(1548)年には武田信玄が信濃へ出兵した際に谷戸に陣所を構えたとの記録が残っているらしい。

 「跡」とあるように、もう郭はない。再現されてもいない。各郭のあった場所に小さな立て看板があり説明が書かれているだけ。軽い山登りといった風情で、いつ行ってもほとんど人がいない。たまに一組、二組すれ違うくらい。いつもこの山を登ると、何だか時が止まっているような、時空がよじれているような錯覚に陥る。私にとって、ぼんやりしたり、何か煮詰まったとき、もっつてこいの場所なのだ。

 山肌にソメイヨシノ、山頂はわりと開けた台地で枝垂桜が一本、見晴らして周りには赤松や杉の大木。同心円状に降りると八重桜の群生もある。このあたりの桜は東京より一月遅れだが、さすがにソメイヨシノと枝垂桜は葉桜になっている。でもかろうじて八重桜が散りきっておらず、かわいらしいぼんぼりのような花を覗かせている。歩を進めると足元の草々は嬉々として鮮やかに、たまに驚いたトカゲは走りアマガエルが跳ぶ。名は知らぬがモンシロチョウのような白い蝶や大きく優雅な黒い蝶(クロアゲハとも違う)がひらひらと舞う。鳥の声と、風が木の葉を抜ける音しか聞こえず、穏やかで、しんとしている。ふと、天国とはこんなところなのかもしれない、と思う。

 さあ、今日のイベントだ。どの木に登ろうか。山頂をぐるり一周する。赤松は猫たちがよく登っているからよくわかる。人は登れない。(特別な装備があれば別だが)エマシマのような引っ掛かる爪もないし軽快な体重もない。とっかかりになる枝はだいたい高いところから分岐する。無理。次なるターゲットを探す。しばらく。・・・わあ、あの木、登ったら素敵そう。新緑の葉をわさわさと繁らせ、葉の間からは葉より薄い浅緑の花穂(房状)をたわわに垂らしている。きれいだなあ。何ていう木だろう。(後に調べてみると「イヌシデ」という落葉広葉樹だった。)立派な枝を四方に伸ばし、斜面のへりにそびえる大木。登れたらきっとふもとの集落や田園を見下ろせるのではないかしら。ワクワクする心で挑む。とっかかりとなる下から第一本目の枝は私の背丈より30cmほど上、えい!手をかける。・・・体持ち上がらず。(懸垂力まるでナシ。)幹に足をかけるも凹凸のない幹、足も固定できない・・・。ムムー!再びトライ。同じく。もう一度。エマを真似て助走つけてどうだ!ずるるる・・・。見上げると枝に蜘蛛を発見。芥川龍之介「蜘蛛の糸」が頭をよぎる。お願い蜘蛛!・・・むなしく(当たり前)諦める。

 山頂から一段降りる。しばらく。あ、あの木はどうだろう。ブナだろうか。とっかかりの枝もさっきより低い。手をかけ体重をかける・・・ミシミシミシ・・・ゲ!この枝腐ってるゥ!・・・むーん。

 木に登るとはこないに難しいものなのか。少しなめていた自分を恥じる。はいどうぞお登りなさい みたいな枝振りの木はそうないのだ。意気消沈して脇を見やると八重桜の群生地。ああ、まだ咲いているのよね・・。あれ!?この木、登れるのでは?枝は柔らかく四方に伸び、幹はごつごつとしている。第一枝の高さも大丈夫そう。さあ第一枝に手をかけ、幹のこぶに足をかける。えい!登れた!次の枝!そしてまた次・・・。気づくと足元はゆうに地上3mは超えている。ヒエー!突然怖くなる。心なしか鳥たちが騒いでいるかのよう。グゥワーッ!ズィーズィーズィー!ピヒョーピヒョーピヒョー!もしかして私が木に登ったのがバレたのか。なんかわからん奴木に登りよったでー!気をつけやー!とでも言っているのか(たぶん被害妄想)。登っていた太い幹にまたがり安定。右手で脇の枝をしっかり掴む。ふう。気をつけなければ。まだ人生終わりにしたくはない。落ち着くまでしばし動かず。

 落ち着いた。もう上を目指すのはよす。ここでいい。そして幹に上半身をゆだねてみる。もちろん右手はしっかり掴まったままで。気をつけながら少し顔を横にすると下が見える。すると一面に花びら。桃色の絨毯だ。なんて素敵。

 間近に八重桜の葉を見る。葉脈が光に透けてさまざまな色の層に変化する。触る。やわらかい。見上げるに枝葉からのぞく空は青く、雲がゆっくりと動いていく。古の武将たちもこの空を見たか・・・。極上のぼんやりをきめる。

 堪能した。さあ降りよう。実は降りる方が大変なのは世の常。エマシマもよく降りられなくなって鳴く。へっぴり腰、おそるおそるやっとこさ降り、最後は飛び降りる。ズドン!無事地上へ帰還。

 そして朱色の山つつじやレンゲ草を愛でながら足軽に山を降り、帰路についた。

閲覧数:48回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page